変身ダコの飼育顛末-2

変身ダコの飼育顛末-2

天才形態模写の飼育はじめ

 このゼブラダコ、NHKの特集で擬態(ぎたい)するタコ「ミミックオクトパス」と紹介され、一部の人たちの間では結構有名になっている。モノマネは40種以上にも及び、ミミックオクトパスの名前の方が今では有名。ただ、ミミックオクトパスは擬態するタコの総称で、ミミックオクトパスと呼ばれる種類は日本にも何種類か存在する。近くでは西伊豆にもいるらしい。ショップで販売するゼブラダコはインドネシア・バリ便がほとんどで、店頭に並ぶ海水魚のほとんどは輸入モノ。そのミミック族の中では、このゼブラダコが最も芸達者で、先にも述べたように40種以上のレパートリーを持っており、岩や石などの固定物はもちろん、イソギンチャク、ヒラメ、ウミヘビなど、その特技は涙ものの努力を感じられる。まあ、人間から見たら言われればそうかなあ、という程度だが(思わず「似てないぞ!」と突っ込みたくなるものも多い)、海の中の生物には充分な変身といえるのだろう。でも上手な擬態もあって、ウミヘビなんてなかなかのものですよ。それから、ヒラメって、何の意味があるのだろうか。変身するメリットって――。

これはカニ?
これはウミヘビ?

 タコ飼育の上で問題となってくるのが、なんと言っても脱走と餌。
 まず脱走だが、タコはもっと大きな固体でも、ほんの1cmの隙間があれば逃げ出してしまうのだ。かつてテナガダコを飼育していたときに、水槽と蓋の隙間2cmほどしかなくても、何度も脱走してしまい、大捕り物になった記憶がある。今回の個体よりも遥かに大きく、頭部(胴)の長さが10cm、直径も5cmはあったのに、いったいどうやって逃げたのかわからないが、何度も脱走を経験した。それより遥かに小さい今回の個体。逃げ出すチャンスは無限大。変身や脱走もそうだが、タコは結構「頭がいい」生物と言われている。芸をするわけではないが、ガラス瓶に餌を入れふたを閉めておくと、自分でふたを回して開けて、中の餌をとるという映像をよく見る。ふたを回して開けるという行為は、相当知的レベルが高いのだが、タコはいわゆる脳を持っていない。神経が集まっているだけである(原始的な脳とも呼ばれる)。それでも、このような知性がなぜ備わっているのだろうか。

水を得た魚状態のゼブラオクトパス。

 以前読んだ本で、最も知性のある動物が何故人間なのかというと――といっても、人間自身が言っていることだが――「脳の大きさはもちろん、二足歩行であり、手が使え、目が他の機能より優れていて、言葉を使えるからだ」と書かれていた。脳の大きさでいえば、人間とイルカはほぼ同じだが、人間の知性だけ進化したのは、イルカは他の機能が進化し、特に手のないことが影響しているらしい。同じようなことが犬にも言える。また、類人猿は手を持ってはいたが、声帯が劣っていたために人間のような進化ができなかったという。タコは、確かに脳は大きくないが、人間以上に自由に使える便利な手(脚?)があることが、色々な知的行為ができる要因であるのだろう。さらに脳と呼べる器官は脚の付け根にもあるので、一個体のタコには脳が9個あるらしい。そして長く伸縮する足に、掴んだものを固定する吸盤がそろっているのだから器用なのも理解できる。これで脳が発達していたら、最強になったかもしれない。学術的には、視覚と脳の機能が脊椎動物に劣らぬ程よく発達しているのがタコで、図形を識別するなど学習・記憶能力を持っているとのこと。昔のSF映画の宇宙人がタコに似ているのも、この知性から来ているのだろうか、というのは考えすぎか。ただ、それだけ「頭がいい」生物なのである。

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