世界に誇る究極の美 第2回 ヤマトタマムシ-6

世界に誇る究極の美 第2回 ヤマトタマムシ-6

タマムシ捕り名人からのノウハウ

「玉虫の会」会長の本業は民宿のご主人である。
 会長さん曰く「このあたりはよく飛んでいる」とのことだが、その日はまだ目にしていない。どうしても捕獲したいとお願いすると、必ず舞っているケヤキを案内してくれることに。エノキでなくケヤキなんだ。いままでエノキを探していたのに、どういうこと?まあ、それでもタマムシがいれば構わない。

案内されたのはエノキではなくケヤキだった。


 いざ、タマムシの木へ。勢い込んで買ったばかりの柄が2メートルはある捕虫網を用意すると、会長さんが苦笑い。「それじゃ、無理だよ」と自分が普段使っている捕虫網を物置の奥から取り出してくる。見て、びっくり。網の直径は50cm以上はあるだろう。網は太いナイロンでできており、まるで漁師が使う魚用の頑丈さだ。柄を伸ばすとゆうに5mはある。手作りらしいが、このぐらいの大きさがなければとてもタマムシの捕獲などできないらしい。

市販の捕虫網と名人自作の網。大きさも長さも全く違う。持っているのは名人


 自分の貧弱な捕虫網を携えて、巨大な捕虫網を抱える今井さんの後に続いた。
 ケヤキは街中でもかなり背の高いものが多い。江戸時代から街道沿いの道しるべとして植えられたことから、高齢樹が多いためだろう。虫にも強く、枯葉は厄介ながらも比較的手間が掛からないことも、街の至る所で見られる理由だ。案内されたケヤキは想定以上の大きさだった。
 川沿いの大きなケヤキに光沢をひけらかして舞っている小さな影をすぐに発見。そこで今井さんが手にしている巨大捕虫網の理由が分かった。タマムシは確かに多数確認できたが、かなり高い場所にしか飛んでいない。今井さんの巨大捕虫網でさえ難しいのではないのか、と思える。ましてや、自分の持っている貧弱な捕虫網など、何の役にも立たない。

大ケヤキに挑む名人。通常の昆虫採集とは違う。挑んでいるようだ


 馴れているのか会長さんはスッと巨大捕虫網を垂直に立てて、その巨木へと歩み寄った。タマムシの飛ぶ様子をジッと観察している。とても届かないと思えるが、上空を舞うタマムシの1匹がケヤキを周回するように、螺旋を描きながら下降してくる。その1匹を見逃さなかった。規則に守られた軌跡の前に網を待ち構えると、スッと振り下ろす。見事。ナイロンの網の中にタマムシが1匹。網がミドリなので目立たないが、確かにヤマトタマムシだ。今井さんはおもむろに網をひっくり返して戦意喪失したタマムシを捕まえる。すぐにケースを要求するが、急に言われてもリュックの中から直ぐに取り出せない。そのタイムロスで戦意を取り戻したタマムシは、会長さんの手からケースに収められることはなかった。カブトムシよりも高く細かい羽音を残して、天空目指して一直線に飛び去ってしまう。「あ~あ」と云う顔の今井さん。巨大網を差し出し、こんな調子で捕まえるんだよ、とバトンダッチ。今度はわたしの番だ。早速、見よう見まねで巨大捕虫網を垂直に立てると、これが重い。持っているだけで重労働なのに、垂直に保つのは肉体労働をしていない人間には過酷だ。1分も絶たないうちに力尽きてしまう。それでも採集という目的のために、何度も挑戦する。やはり厳しい。それに上空に飛んでいるタマムシな、なかなか降りてこない。それならば、降りてくるまでは捕虫網を地面に下ろして、力を温存することに。しかし、今度は間に合わない。持ち上げるのには保持する以上のエネルギーが必要なのだ。「がんばれ、がんばれ」自分を鼓舞しながらタマムシが降下するのを待つことに。もう、肩が外れても構わない。こんなに頑張ったのはいつ以来だろうか。

飛んでくるところを待ち構えて捕らえる


 努力を認めてくれたのか、根負けしたのか、1匹のタマムシがゆっくり降下してくるではないか。慌てずに届く範囲まで息を殺して見守る。チャンスは一瞬だった。
「よし!」遂に捕獲したのだ。この手で、輝く黄金の虫を。

遂に一匹捕まえることができた。感動!

ヤマトタマムシカテゴリの最新記事