快適オケラ生活 第1話

快適オケラ生活 第1話

オケラだって生きている。オケラだって友達なんだ

 お金がないから、オケラを飼育しようと思ったのではない。確かに海水魚を長く飼育して、その湯水の如く資金を費やしたことには疲弊したが、趣味とは、お金を使わないことがベストという意見には賛同しかねる。単純に「おけら(螻蛄)」という生物を採集・飼育したいという欲求に駆られたのが理由である。まあ、確かにお金は掛からないとは思ったが。

「おけら」という名前はかなり有名だ。ギャンブルなどでお金がなくなる(持ち金がない)ことの喩えでよく使われる。単にお金がないことも「おけら」と昔はよく口にしたが、最近の若い人が使うかはよくわからない。ということで、高校生の長男に聞いてみると、虫の「螻蛄」は知っているが、「お金がない=おけら」は初めて聞いたとの答えが。意外だった。「おけらになった」は死語なんだね。結構古くから使われているはずなので、流行語ではないはずとは思っていたが、時代によって言葉が大きく変わることを実感。だからと言って、虫のオケラ(螻蛄)を見たことがあるかというと、それもないという。では、何故有名かというと、あの名曲に出てくるからだ。

オケラという名前は有名だが、本当にいるのだろうか

 かの「アンパンマン」の作者である「やなせたかし」作詞の名曲「手のひらを太陽に」で、ミミズとアメンボと並んで、オケラが登場する。「ミミズだって、オケラだって、アメンボだって」である。3つの生き物が並んでいるが、これは語呂から選んだのだろうか。それとも、生きているのに値しないと思われている生物から選ばれたのか。ご本人に是非お聞きしたいものだ。この3種の生物では、オケラが圧倒的に知名度が低い。名前から容姿が想像できる人は少ないはずだ。むしろ、この歌がなければオケラは名前さえ知られていないだろう。偉大な曲である。因みに2番の歌詞は「トンボだってカエルだってミツバチだって」である。2番の方が主役級のキャラが並んでいるとは、やなせ氏のセンスには思わず「さすが!」と感心してしまう。
 余談ではあるが、1番の歌詞、当初はアメンボではなく、ナメクジだったらしい。ナメクジ、ミミズって、子供のころの嫌われ者の代表的な生物である。ナメクジとミミズでは、オケラが余りにも可愛そう。オケラではなくケムシではないか、と突っ込みたくなる。ケムシ好きには申し訳ないが、ってケムシ好きがいるとは思えないが。ただ、最終的にナメクジがアメンボに変更したのだから、どうしてもオケラは必要だったのだろう。確かに「オケラ」って言葉は悪い印象を与える。「おけらになる」もそうだが「虫けら」も最低の表現だ。

ミミズとナメクジと同列とは

 話は「お金がない」の「おけら」に戻るが、その意味は、虫のオケラを捕まえると、2本の前脚を大きく広げる格好が「おてあげ」というポーズに似ていることから、無一文になる事を「おけらになる」というようになったといわれている。これが有力な説となっているのだが、どうもしっくりこない。両手を挙げている姿勢が「おてあげ」とは、とても見えない。ただ動かなくなっているだけとしか思えない。

これが有名なお手上げのポーズ


 他にもいくつか仮説があるのだが、一番真実に近いのは、「おけら=裸虫」から由来しているという説だ。オケラは羽が短く、確かに成虫でも裸のような見てくれである。そのため、昔は裸虫とよくいわれていた。賭博などで身包みを剥がされた様子に裸虫を喩えたという説が有力ではないのかと考えている。そのため、「おけらになる」も賭博やギャンブルで頻繁に使われたのも頷ける。他にも、昆虫ではなく植物の「オケラ」から来ているという説もあるのだが、私自身は「裸虫」が一番しっくりくる。

後姿は、まさしく「裸虫」


 金欠の「おけら」が虫の「オケラ」から由来しているのなら、虫の「オケラ」は何から由来しているかというと、どうも「土を蹴る」の「ける」が変化して「けら」になったらしい。これも強引過ぎるが、例えば犬も「居る」が変化して「いぬ」になったことから、そんな単純な語源にも納得できる。でも、ここで一つ疑問が。なぜ、「お」が付いているのだろう。ほとんどの虫は、頭に「お」など付けないのに。タガメもクワガタも、チョウやバッタも「お」は決してつけない。それなのに、「けら」だけは、「お」を付けても、何の違和感もない。その上、「おけら」をパソコンで変換すると「螻蛄」と漢字になる。正式名は「けら」なのに、この特権はなんなのだろう。このことに関しては、色々調べたものの、これと言った正解は探せなかった。いつか、解明したい疑問ではある。「けら」は虫の中でも特別に愛されたのだろうか。なんてことはあり得ない。ミミズとナメクジと同格なのだから。

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