快適オケラ生活 第19話

快適オケラ生活 第19話

冬が来る前に

 11月になり、もう冬支度しないといけないのに、今年の暖かさはどういうことだ。産卵、繁殖を期待していたのだが、これといった変化なし。しかし、暖かい、期待なしといっても準備はしなければいけない。それなら越冬を観察しようではないか。ということで、今年最後と思われる掃除をすることに。
 冬対策として考えたのは床材を厚めにすることぐらい。今までよりも5㎝ほど床材を多めにする。また、水苔だけでは防寒が不安だったので、リクガメ用のチップ床材をいつもより多めに入れることに。これで十分な越冬ができるか不安だったが、室内での飼育なので、それほど温度が下がることはないから、問題ないだろうという安易に考えている。
 ということで、早速、床材の入れ替えを始める。11月だが暖かいためか、作業が進むと汗が出てくる。11月に入っても夏日とは異常。70年ぶりということだ。
 黙々と床材をゴミ袋へ移していた。もしかしたら、タマゴがあるかもという薄い期待に、その作業はいつも以上に丁寧となってしまう。今回の大掃除で見つからなければ、来年まで諦めるしかない。そう考えると、この作業が何もなく終了してしまえば、本当に今年の仕事は「ジ・エンド」を迎えることになる。それでは淋し過ぎるので、期待は徐々に募ってしまう。でも、いつものようにオケラ達はなかなか発見されない。ケースの底に逃げ込んでいるのは元気の証拠などと勝手に想いを馳せていると、動かぬ生体を発見。そう、死骸である。まだ原型を留めており、お腹も膨れているので、つい最近息絶えたのだろう。後で観察するため、保管して作業を続ける。
 掘り起こしを続けていると、次々に元気な姿を発見。殆どの個体が生体となっている。でも残念ながら、タマゴは見つからない。ちょっと名残惜しかったが、これ以上期待はできないので、新たな床づくりを始める。水苔、爬虫類用チップと何層にも床材を重ねながら、別のケースで待機しているオケラ達をちら見すると、まあ相変わらず元気なこと。小さなケース内を動き回り、ケースにぶつかっては転倒、仲間を踏み台にして登ろうとして転倒と大騒ぎである。地中から出すと落着けないのか、その姿は申し訳ないが愉快だ。時折、床づくりの手を止めて、暫く眺めてしまう。微笑ましいこの姿も、冬が終わるまで見れないとなると、ちょっと淋しい。ここまで無事に育ったことは純粋に嬉しい。彼らの越冬のための床づくりが終わり、一斉に戻すと我先を争うように床の中へ潜り込む。彼らにとっては、どんな材質でも光の届かない世界が極楽の地なのだろう。

相変わらずの愉快な姿。
我先に争うように潜ってしまう。


 最後の作業が終わり、先ほど外しておいた死骸の観察に移る。すると、死骸からこぼれていた白いおがくずのような点状の物体が動いているではないか。最初は個体にくっ付いていた床材のくずかと思っていたのだが、よく見ると振動のように小さく蠢いている。そして、死骸の胸あたりは塊となっている。それは昔買っていたタコの卵塊のようだ。ということは、タマゴと子供たち。そう思った瞬間、慌てて小さな別のケースに水苔で床をつくり、死骸ごと埋めた。う~ん、これは期待ができる。などと、少しほくそ笑みながら、タマゴの管理を確認するために図鑑を読み直してみると、そこには似ても似つかない写真が。説明文を読むと、タマゴは直径2㎜程度。先ほど隔離した死骸にくっ付いていたタマゴと思った物体は1㎜、いや0.5㎜にも満たない。あの子供と思った蠢く小さな個体も、大差ない大きさだ。すぐにその正体が分かった。あれはタマゴでも子供でもない。他の生物だ。考えていた以上に期待が大きく、安易に判断してしまったことが悲しい。では、あれはなんなのだろう。個体に群がっていたことを考えると、寄生虫では。それは大いに考えられることだ。己の先走った勘違いはさておき、この寄生虫の正体を調べないと。

一瞬タマゴと思った粒は、全てダニ。


 早速、「おけら 寄生虫」でキーワード検索をする。でも、検索結果は線虫か寄生蜂ばかり。どう考えても線虫ではない。ネット上に紹介されている線虫の写真は、確かに線の虫だ。今回のは線ではなく点だ。二次元と一次元の違いがある。それでは、寄生蜂の幼虫か、ということで検索するが、どうしても点状の幼虫は出てこない。検索キーワードを変更すると、ある文言にピンとくる。
「カブトムシ ダニ」
 検索キーワードは「寄生 白い点 昆虫」だった。
「カブトムシのダニ」思い出した、子供のころ飼っていたカブトムシに、よく白いダニが付着していたことを。当時はダニとは思っていなかったが、カブトムシにはよくないことだけはわかっていたので、歯ブラシで落としていた記憶がよみがえる。その状況と全く同じだ。これはダニだ。
「ケナガコナダニ」“動く白い粉”この表現はぴったり。でも、穀物や乾燥食品に発生するという解説。違うのかなあ。もう1種類「コナヒョウダニ」名前に粉が入っているとは、こちらも可能性大。判断できないが、どちらにしてもダニを子供と間違えて、ご丁寧に新しい飼育環境を提供したとは、勘違いも甚だしい。恥ずかしいというより、可笑しいやら悲しいやら。結局、死骸とダニと床材はゴミ袋行きとなった。ダニを育てるとどうなるか、と少し興味は持ったもののが、大量に増えて室内に脱走したら、それこそ目も当てられない。しかし、新しい床材の中にもダニは棲んでいるということだ。不安要素が一つ増えてしまった。

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