快適オケラ生活 第22話

快適オケラ生活 第22話

そして11匹残った

 4月になった。生存者の探索も含めて水苔の全替えを行う事にする。
 結局、カビは気になるほどの発生は見られなかった。ダニが発生している様子もなかったが、原因解明はできないままだ。ただ試行錯誤は繰り返し、それなりの方向性は見つけたような。やはり、エサの位置なのだろうか。越冬中は、生体が掘っていると思われる巣穴まで、ピンセットで穴をあけ、そこにエサをセットするようにしていた。これが解決した理由ならば、カビが発生する前に、オケラがエサをすべて平らげていたことになる。まあ、これも推測なので、当てになはらない。
 それより心配なのは、生体達の安否だ。あれから、掃除は全くしなくなった。もちろん意図があったのだが、やはり不安は残る。その上、エサのセットのために毎日穴を掘り返していた。成体への負担は大きい。ただ極寒の中でも、水槽底には元気な姿が毎日見れたので楽観はしていたのだが。

エサはトンネル内にセッティング。
エサを食べているのかわからない。


 いろいろな想いも秘めて、ついに4カ月ぶりの掃除開始。相変わらず、一方的な床材の廃棄から始まる。過去の体験と同じように、生体の姿は気配さえも窺えない。念のため、かなり注意を払いながら、救い上げたチップをゴミ袋へ。まだ生体など登場しないのは分かっていたが、苦しい越冬をした彼らを捨ててしまうことは絶対に許されない。最盛期には20匹以上はいたはずだ、などと数を正確に数えていなかった自分の無責任さを棚上げに、期待を馳せながら同じ作業を繰り返した。しかし、一向に生体は現れない。でも、これは今まで経験したことではないか、とかなり余裕を持って床材の廃棄を行う。しかし、それにしても現れない。いや、確かこんなものだ。それに水槽の底に生体はいたではないか。でも不安だ。葛藤しながらも床材を掘り出していると、期待の、いや安堵の1匹目が飛び出してくる。
「よしっ」なのか、「よかった」なのか、何とも曖昧な感情。でも嬉しい。その元気な姿は、冬前の姿となんら変わりがなかった。
 一匹目の確認時は安堵したものの、全ての生態を確保した時、やはり数の少なさが目立った。数えてみると11匹。以前は20匹超だったから、半分に減っていることになる。死骸も見つからないので、食べられてしまったのだろうか。お互い共食いをしながら、冬を乗り切ったのでは残酷すぎる。しかし残った11匹の精鋭は元気だ。動きは早く、止まることを知らない。その姿を見ると安心する。
 久々の大掃除を終え、新しい水苔をセットし、全員を戻すと新しい季節の始まりを感じる。

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