昆虫界きっての道楽者 キリギリスを探して-1

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キリギリスではなかった、あの物語

 キリギリスは遊んでばかりで、働かない虫の代表。そのイメージは、あのイソップ物語「アリとキリギリス」の影響である。しかし、アリはともかくキリギリスを見たことがある人は少ないのではないだろうか。名前だけが先行してしまった代表的な虫ではあるが、このイソップ物語は、最初はキリギリスではなかったことを知っているだろうか。では、なんだったのかと言うと、実は「アリとセミ」だった。

あまりに有名なアリとキリギリス。キリギリスは遊んでばかりなのだが。


 イソップは紀元前6世紀頃のギリシャ人であるらしい。これ自体も曖昧なのだが、そのころは「キリギリス」ではなく、「セミ」だった。それが、アルプス以北に伝わるときに、「セミ」に馴染みがなかったので、選ばれたのが「キリギリス」だったとのこと。夏場に騒々しかった昆虫が「キリギリス」だったのだろう。古い絵本を見ると確かに「キリギリス」ではないが、「セミ」ではなく、「ゴキブリ」にしか見えない。観察力がなかったのか、画力がなかったのかはわからない。その絵からコオロギになった国もあるとか。今はどうなっているのだろうか。日本でも昔は「蟋蟀」と書いて、キリギリスとも、コオロギとも読んだようだ。ほとんどの場合がコオロギを指していたようだが、まあ、いい加減だったのだろう。


 また、イソップは物語を作ったのではなく、アジアの小国の昔話を伝承したに過ぎない。つまり、伝言ゲームのようなもの。真実はわからない。

 現代はどのようになっているのか、興味が持てる。ギリシャでは相変わらずセミなのだろうか。それとも逆輸入となり、世界共通で「アリとキリギリス」になっているのか。イタリアでは未だに「アリとセミ」らしい。やはりギリシャも「セミ」なのだろう。財政破綻したギリシャはヨーロッパのキリギリスと揶揄されが、皮肉なことにギリシャにはキリギリスはいない。ギリシャの人に正しく伝えるならヨーロッパのセミというべきなのだろう。

ルネッサンス頃の「アリとセミ」挿絵(イタリア地方)。セミではなく、ゴキブリにしか見えない。

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