昆虫界最強のトラップ職人-1

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砂のライオン アリジゴクの飼育

 子どものころ憧れる昆虫は、その形状によることが多い。昆虫ならではの機能的な構造や、色彩、逞しさなど、上げるときりがないが。今回取り上げるアリジゴクも、他の虫に負けてはいない。機能的である形状は、その性質と相まって畏れさえ感じる。まさに地獄の底で待ち構える鬼のようだ。

 多くの方が知っていると思うが、アリジゴクは、ある虫の幼体である。完全変態なので幼虫が適切だろうか。ある虫とはウスバカゲロウ。子供のころ、ウスバカ・ゲロウと笑ったものだ。「薄馬鹿下郎」と当て字をしたのは「どくとるマンボウ」こと、北杜夫だったような。馬鹿にされた親ではあるが、その子供は日本では地獄からの使者と言われていた。昔の人は全く異なる虫と考えていたのだろう。
 このアリジゴク、英名ではant lion。アリにとってはライオン並みに恐ろしいという語源らしいのだが、英語では成体のウスバカゲロウもant lionである。幼体の名前が、そのまま生体にも反映されたという珍しいケース。そのウスバカゲロウだが、実はカゲロウの仲間ではない。

英語ではant lion。勝手に「砂のライオン」と名づけた。頭の形からは鬼虫の方が合っているかも。


 そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、ウスバカゲロウやクサカゲロウはカゲロウ目とは縁遠いアミメカゲロウ目に属している。大きな違いは完全変態か、不完全変態なのか、である。アリジゴクとウスバカゲロウは、幼体と成体の形状がかけ離れているので、完全変態であることが分かる。フライ・フィッシングの餌として有名なカゲロウの幼体も、その形態は親とは大きく異なっているのだが、完全変態ではない。似たような種類に、セミやトンボがいる。子供と親では全く形状が異なるものの、やはり不完全変態に属する。完全変態と不完全変態の決定的な違いは、蛹と呼ばれる期間を有するかどうかである。蛹の中で大変身を遂げる虫が完全変態であり、世間に身を晒しながら脱皮と云う行為で形状を変えていくのが不完全変態になる。ただ、どうしてもバッタやオケラのように成長しながら形を変えていく虫と、セミやトンボのように、一回の脱皮で形が大きく変わってしまうものを同じ種であると言い切るには無理がある。ヤゴなんかエラ呼吸しているのだから、昆虫最速の飛翔体であるトンボとは、全く別の生き物と云っても知らない人は信じるはずだ。生物学的ではないが、これらの仲間は半変態と呼ぶこともある。その分野を早く確立してほしいものだ。

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