昆虫界最強のトラップ職人-2

昆虫界最強のトラップ職人-2

薄馬鹿下郎の子供

 アリジゴクの醍醐味は、何といってもその生活形態というか、狩猟方法である。細かい乾いた砂にすり鉢状の巣をつくり、その最深部で大きな顎を開け、獲物が罠に落ちるのを待ち続ける。巣に落ちたアリは必死にもがくが、どんなに頑張っても底まで滑り落ち、そして、鬼のような両顎を持った地獄の使者のエサと化す。まさしく、蟻地獄である。アリジゴクは罪なき働き者のアリに罠を掛ける姑息な子鬼とでもいえよう。ただ、誰もが想像する地面に垂直の姿勢で待ち構えているのではない。実は水平とまではいかないが横になっているのだ。ちょっと憎めない感じもする。わたしはこのすり鉢状の窪みを、アリジゴクの罠またはトラップと呼びたい。もちろん敬意をこめている。
 このようにトラップを作るのは、アリジゴク以外で有名なのは、昆虫ではないがクモが挙げられる。またトラップを使わない捕食性昆虫の多くは、待ち伏せ型である。カマキリ、タガメなどはその代表である。どちらも、己の武器である鎌を構えて、エサとなる生物が射程範囲に入ることをひたすら待っているのである。この待ち伏せ型に対して、自ら捕食行動をする種類を探索型と呼ぶ。トンボやテントウムシ、ゲンゴロウなどがこれに属する。

昔はどの家の脇にもアリジゴクの巣があった。今は粘土質の地面は消えうせ、アリジゴクにも棲みづらくなっているのだろう。


 トラップを仕掛ける待ち伏せ型のアリジゴクだが、あのようなすり鉢状の仕掛けを作る仲間は意外と少ない。多くは、砂に身を隠し、近づいてきた対象物を捕まえるという、カマキリに似た狩猟スタイルである。しかし、それではアリジゴクと呼ぶには値しない。あのすり鉢状の罠が最大の魅力なのだから。

[豆知識]
アリジゴクは縦になって待ち伏せはしていない。実は図のように横になって顎だけ突き出している。そのため、すり鉢は非対称に掘られている。自分のいるほうが半径が長い。つまりなだらかになっている。そちら側に獲物を誘導し、えびぞりになって砂をかけ、獲物を底に滑らせるのだ。

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