昆虫界最強のトラップ職人-3

昆虫界最強のトラップ職人-3

神も恐れぬ昆虫採集

 山間にある神社はひっそりとしており、人影もなく、虫たちにとっては最高の棲家に思える。ある意味、殺生に近いことをするので、本殿にお参りをする。賽銭もいつもよりかなり多めに奮発。天罰が当たらないように念入りに祈る。お参りが済むと、さっそく採集開始である。暗くジメジメしていることもあり、既に手や足を蚊に刺されてしまった。早いこと退散しないとひどいことになりそうだ。

本殿の軒下はヒトが入れるほど広い。土は乾いており、窪みがいくつもある。興奮してしまう。


 まずは本殿の周りから。社殿の下には白い砂が広がっており、すり鉢状の窪みが数多く並んでいた。久しぶりのアリジゴクとの対面だったが、こんな簡単に捕獲するのが申し訳ない。意気込む気持ちを抑えながら、巣を砂ごとスコップで救う。この方法が、アリジゴクの捕獲では一番手っ取り早い。釣り糸にエサを付けて、釣る方法もあるのだが、今回は効果的な強引な方法で行う事に。釣り上げるのは醍醐味ではあるので、いつかは試してみようとは思う。

スコップで慎重に砂ごとすくう。巣を壊さないように掘り起こすことが大切。


 ところが、簡単には捕獲できない。窪みごと掘り起こし、砂を慎重にすくうのだが、肝心のアリジゴクが見つからない。砂といっても公園や海岸の砂とは違い、土も含まれているので、探しにくいのは確かなのだが、それにしても、あの鬼の形相がどこにもいないのだ。丁寧に砂を広げるものの、やはり見つからない。もしかしたら、あの窪みは、ただの雨の跡でしかないのだろうか。不安を感じながらも、次々と場所を変えながらすくっては広げて確認する。しかし、どうしても見つからない。悪い予感はあったものの、とりあえず砂だけはケースへと運んだ。そんな堂々巡りが続いたときだった、ケースの砂を改めて観察すると、小さな存在ではあるが、あの凛々しい顎がひっそりと突き出ているではないか。丁寧に、そして慎重に砂や土を広げてみると、ぴくりともしない小さな虫が姿を現した。それは小さく、色は土に同化しており、簡単には発見できないことが理解できる。形状は想像通り不気味ではあるが、なんとも弱々しいイメージだ。ちょっと力を加えると死んでしまうのではいだろうか。

すくった砂や土に目を凝らしても、肝心のアリジゴクが見つからない。この写真にも写っているのだが、見つけるのは難しい。

 丁寧に手のひらに乗せ、観察すると、痙攣しているかのようにピクピクと動き出した。そう、アリジゴクは後ろにしか動けないのだ。顎は大きいものの、6本の脚はか細く、前・中脚はは前方に曲がっており、後ろ足は小さいためにひっくり返さないと確認できない。この不恰好な形状は、バックするためだけの機能を優先しているのだ。決して前には進めない。エビやザリガニも後方に進むイメージは強いが、ゆっくりではあるが、前にも進める。後ろにしか下がれない生物。悲しくもあるが、潔くもある。昆虫の凄さは、やはり生活形態に合わせるための特化したフォルムだと改めて感心した。

アリジゴクは前に進めない。この不思議で機能的な形状を得るためには仕方なかったのだろう。

昆虫界最強のトラップ職人 アリジゴクカテゴリの最新記事