昆虫界最強のトラップ職人-11

昆虫界最強のトラップ職人-11

トラップだけではないアリジゴクの職人芸

 本体が抜け出した繭(砂ダンゴ)だが、球状の形態はほとんど変っていない。小さな破れ目と、そこから透明状の小さな抜け殻らしきものが確認できるものの、あの大きな個体が這い出してきたとは想像できない。その瞬間を見逃したことは一生の不覚だった。繭は意外に固く、割ってみると繭を球状に保つための半透明の薄い膜が内側一面に塗られている。ミノムシの蓑に構造的にはそっくりだ。ミノムシは口から粘性のある糸を吐き、その糸で葉っぱや枯れ枝をくっつけて蓑を作る。カイコなどと同じである。アリジゴクも口から糸を吐くのだろうか。わずかに得た情報によると、おしりに針があり、そこからねばねばした糸を出す、らいいのだが、これも真実なのかは不明。あの球状の繭を作る姿を見てみたいが、残念ながら動画も画像もない。アリジゴクは肛門が閉じているので、排泄をしないとい有名な説もある。こちらも、どこかの小学生か中学生かが、糞はしないが尿は排泄したことを観察した、と否定されている。生態的には興味の多い昆虫なのだが、トラップの巣作り以外は誰も興味がないようだ。ただ、ミノムシが自分の身体に合った蓑を作るのに対し、アリジゴクはほぼ真球を作るのだから技術的には圧倒している。トラップだけではない職人技が垣間見れる。

羽化した後の砂ダンゴ(繭)。形は変っていないが、這い出てきた痕跡が残っている。あの大きな成体にしては抜け穴は小さい。


 その後、他のアリジゴクも次々に砂ダンゴ(繭)を作り、巣立っていった。一生を見送ったという満足感に感無量だったが、羽化の瞬間は一度も見ることができなかった。あの小さな砂の塊から大きな羽を携えて出てくるか弱い昆虫の姿を肉眼で見れなかったのは、悔やまれる。惜しいことをしてしまった。

砂ダンゴを割ってみると内壁は薄くコーティングされている。この小さな空間で形態を変えたのだから、さぞや大仕事だったのだろう。

第一話

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