昆虫界最強のトラップ職人-14

昆虫界最強のトラップ職人-14

アリジゴクと文学

 アリジゴクで書籍等を検索しても出てくるタイトルは「人妻蟻地獄」「姉妹蟻地獄」などと、いかがわしいものばかり。しかし、過去には著名な作家が題材にしている。かの「山椒魚」をはじめとする自然観察で有名な作家「井伏鱒二」に「蟻地獄」なる詩がある。ただ、詩として成り立っているとは思えないので、散文のほうが適切と思われる。幼い頃の回想文であるのだが、蟻地獄を見つけたときの一人遊びが描かれている。
「こんこん出やれ、鬼出やれ こんこん出やれ、鬼出やれ」と囁くと、穴の底から蟻地獄が顔を覗かせ、「おい、いたづらは止せ」と云いたげにすぐに隠れる。

まさしく鬼


 まさしく一人遊びである。ここでの〝こんこん〟が何を意味しているのかはわからないが、やはり「鬼」と呼ばれていたようだ。
 もう一つ、「月に吠える」で著名な詩人「萩原朔太郎」の詩で「蟻地獄」というものがある。「ありぢごくは蟻をとらへんとて おとし穴の底にひそみかくれぬ」で始まるのだが、こちらは生態を丁寧に描いている。詩としての文体を保ちながら。蟻地獄のもつおどろおどろしさが伝わってくる。「ありぢごくの貪婪(たんらん)の瞳」は擬人化表現ではあるが、言い得て妙。機会があったら読んでいただきたい。

第一話

昆虫界最強のトラップ職人 アリジゴクカテゴリの最新記事